今回は大分でセキュリティのプロとしてご活躍されている株式会社勉強堂の片山社長にお話をお伺いします。

佐藤:「勉強堂」という社名はとてもインパクトがありますが、鍵やセキュリティの会社でどうしてこの社名になさったのですか?

片山:よく、「お安くさせていただきます」という意味の「勉強」という言葉から来ていると思われるようですが、そうではありません。うちの会社は父が1966年に、もともとは本屋「勉強堂」として創業したことが始まりでして、今でもその名前を継承しているのです。

佐藤:本を読んで勉強するから「勉強堂」だったのですね。

片山:当初は文具やレコードなども販売していましたが、早くから鍵も扱っていました。

佐藤:セキュリティの分野へはどんな経緯で?

片山:当時「ワンドア・ツーロック」といううたい文句でお客様に補助錠をお勧めしていましたが、鍵を2個つけていても泥棒に入られた家がありました。防犯装置の必要を感じた父が本を読んでセキュリティ産業の可能性に気づき、この分野も始めたそうです。

佐藤:その頃のセキュリティシステムとはどのようのものだったのですか?

片山:家の出入り口や窓などに赤外線センサーを張り、侵入者が赤外線に触れると警報音が鳴るというものです。ベルだとご近所の迷惑になるので、犬の鳴き声を録音してならしていました。当時は通報で現場に駆けつける「駆けつけ警備」で、父は365日24時間対応で働いていました。

佐藤:常に仕事モードで待機し続けるというのは大変なことですね。

片山:父はお客様の安全のために24時間働くことを誇りに思っていました。一方世の中では定休日を設けるなど、働き方が変わっていく中で、私は「長時間働くことが美徳」という父の価値観に同調できないでいました。

大学卒業後、父の会社(株)勉強堂防犯センター(当時の社名)に入社しましたが、父とは違う方向性を模索すべく昼夜職業訓練校に通い、1年間猛勉強をして、電気・IT系の資格を5,6個取得しました。その後アメリカの「セキュリティショー」を視察に行ったことで私の目指すべき方向性を確信しました。

佐藤:どんな方向性ですか?

片山:ITを駆使した「遠隔管理」により「入らせない防犯」を徹底するのです。アメリカのセキュリティショーでは、現場に防犯カメラを設置しておいて、遠隔地で映像を監視し、侵入者があった場合には、スタンガンのような電流を流す装置を遠隔地から操作するシステムが提案されていました。

佐藤:現場に駆けつけないで、遠隔地から対処するということですね。

片山:セキュリティショーから2年、1997年に別府で日韓首脳会談が行われたのですが、その際VIPの警備に弊社の防犯システムが採用されました。VIPが滞在する建物の周辺に防犯カメラを設置しテレビ電話で映像を送る遠隔警備です。

佐藤:大変重要な場面での警備システムを任されたのですね。

片山:遠隔での映像警備は、当時としては画期的な技術でした。弊社は長年防犯のプロとして大分県警に協力していたこともあり、最新の技術を信頼していただけたのだと思います。

佐藤:防犯には時代の先端技術が使われているのですね。

片山:そうです。ITを使った防犯システムは、防犯のためだけでなく、アイディア次第で様々なことに役立てるのではないかと思い、2006年に「Be-project」という会社を社内ベンチャーとして立ち上げました。

佐藤:どのようなことをする会社ですか?

片山:ITを活用した、防犯以外の便利なシステムを開発・企画・販売する、勉強堂の新規事業部です。

佐藤:ITの知識をフルに活かそうということですか。

片山:私はただ、新しいものが好きで、なんでも試してみたがる性格なのです。実際は文系出身でITについても専門ではありません。テレビのリモコンの扱いさえおぼつかないくらいの機械音痴な一面もあります。そんな私がデジタルツールであるiPadを利用してシステムをご提案することで、ITが苦手だと思っているお客様にも受け入れていただきやすいのでは、と思っています。もちろん日頃からアナログの技術や考え方も大切にしています。そして、ご年配の方やお子さまにも簡単に扱えて、日頃のちょっとした困り事を便利に解決できるようなご提案ができればと思っています。

佐藤:本業の方はいつ社長に就任されたのですか?

片山:2008年、39才の時です。

佐藤:若くして社長に就任されたのですね。創業されたお父様が作ってこられた基盤があってこそだと思いますが、片山社長は経営についてどのようなお考えでいらっしゃいますか?

片山:セキュリティの業界は日進月歩で技術が進化しています。最新技術を積極的に取り入れて、「入らせない防犯」と+α(プラスアルファ)を追求しています。防犯カメラなどの機器はホームセンターやインターネットで今や誰でも購入出来るようになりました。ただ、それだけでは補えない、長年防犯に携わってきた私どもにしか出来ないリスクマネジメントと、豊かな新しい生活のご提案をしていきたいと思っています。

佐藤:Be-projectでの活動も含めて、片山社長はITを武器として、様々なアイディアで新しいシステムを模索されています。今後新しい展開をお考えですか?

片山:今まさに「新しいゴルフ」事業に取り組んでいます。

佐藤:セキュリティとゴルフとでは随分な隔たりがあるように感じますが、なぜゴルフの分野へ?

片山:直接のきっかけは賃貸住宅のオーナーに向けた東京での展示会です。「賃貸住宅や空き店舗に24時間のシミ ュレーションゴルフ練習場を」というプレゼンに興味を持ちました。後日わくわくしてそのメーカーのショールームを見に行ったのですが、なんとシミュレーションゴルフ練習場は閉まっていました。プレゼンはしたものの実現には至らなったというのです。原因はセキュリティと人件費の問題で「24時間開けておくのは困難」ということでした。ですが私からすれば、セキュリティの問題は当然解決できるので「無人」にすれば「24時間開けておく」ことは十分可能なことに思えました。

佐藤:一般的には「24時間」の施設を運営しようと思えば「人件費の問題→人員削減→セキュリティの問題」と堂々巡りの問題が発生するのですね。それを解決するのが勉強堂のセキュリティシステムということですね。

片山:24時間無人シミュレーションゴルフ練習場を実現することは難しく感じませんでした。ただ、どのタイミングでどのように始めるかと考えていた時に、このアイディアと計画に賛同してくださり、ご自身でやってみたいという方が現れました。そこで、弊社が運営のノウハウとシミュレーションゴルフ機材一式、そしてセキュリティシステムを納品・販売・管理する、という形で、2019年5月に大分の中心部に24時間無人シミュレーションゴルフ練習場をオープンしました。

佐藤:メーカーが諦めていたことを実現させたのですね。

片山:はい。そしてその後1年を経て、この度場所・設備・運営の全てを自社で完結する24時間ゴルフ練習場を大分駅前に作り、9月29日にプレオープンする予定です。

佐藤:間もなくですね。シミュレーションゴルフとはどのようなものですか?

片山:室内で、プロジェクターで映写したスクリーンに向かって実際のクラブでボールを打ちます。打ったときのボールの回転数などをカメラやセンサーで計測して、打ったボールの距離や方向をシミュレートしてくれます。また、算出された飛距離や回転数などのデータをiPad等に表示します。

佐藤:実際に飛ばしたようにシミュレート出来るのですね。具体的な数字まで表示してくれるなら、打ちっぱなしの練習場で打つ以上の成果があるかもしれませんね。このシミュレーションゴルフの販売もなさっているのですか?

片山:はい。このシミュレーションゴルフはちょっとしたスペースがあれば設置して楽しめます。室内、ガレージ、屋上などを利用して個人の練習用に使ったり、企業の福利厚生として会社や寮に設置したり、イベントで使ったりと、様々なご提案が出来ます。気軽にゴルフをする機会が増えればゴルフの普及にも繋がります。

佐藤:片山社長は以前からゴルフ好きだったのですか?

片山:いいえ、そうでもないですかね…。でもゴルフに関わってみると、ゴルフというスポーツの魅力と可能性を強く感じるようになりました。まず、子どもから高齢者までプレーできるため、世代を越えるコミュニケーションツールになります。また審判のいないセルフジャッジなので、マナーや自己を律する心を育みます。子どもの頃からゴルフをすることで情操教育になり、ひいては犯罪の起こらない社会作りに貢献できるのではないかとさえ思います。子どもでもゴルフに馴染みやすいように「スナッグゴルフ」という柔らかいボールを使ったゴルフの普及もしていきたいと思っています。

佐藤:相当なゴルフ愛ですね。最後に片山社長にとって「幸せを生む経営」とは?

片山:「楽しいは正義」だと思っています。-このことばは、サイボウズという会社の青野社長の受け売りなのですが-。もうけることを先に考えると楽しくなくなってきます。周りからどう見られるか、ではなく、自分が楽しいと感じること、興味が沸くことに取り組んでいるうちに、他の人が考えつかないようなアイディアが生まれ、それが付加価値になりビジネスになったりします。もう1つは人と人との繋がりを大切にすることです。商売だからと割り切って、目の前の単純な損得勘定に終始するのではなく、お客様やお取引先と、お互いの立場を尊重し合って協力することが大事だと思います。そうしたサービスで目の前の方に喜んでいただき、さらにその方と繋がる誰かにも良い影響が及んだら、それは嬉しい連鎖のはじまりです。地域の活性化にも繋がると思っています。

佐藤:インタビューの間もひっきりなしに地域のお客様が鍵を作りに来店されていました。勉強堂さんが地域の方々との繋がりを大切にされていることで、地域の方々に信頼され、支えていただけているのを実感しました。今日はどうもありがとうございました。

 

 

インタビュー後記
今回の株式会社勉強堂片山社長は、これまでの社長インタビューで初めてのIT企業でした。私たちに理解できるか不安でしたが、片山社長のお話はITに限らず、マラソンやトライアスロン、留学生との交流のお話などここには書き切れないほど多義に渡りました。「好奇心」と「行動力」が片山社長の人生を豊かにし、ビジネスを発展させる原動力なのかな、と感じました。今後もどんなアイディアが生まれるのか楽しみにしています。
(株)アクティブコミュニケーションズ 佐藤招子